実話にもとづいた映画はたくさんありますが、映画「ペンギンが教えてくれたこと」ほど登場人物の心をていねいに描写した作品はないといっても過言ではありません。
作品をご覧になった方の中には、実際のブルーム一家がどのようなご家族なのか、またどのような経験をされたのかについて気になった方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、映画「ペンギンが教えてくれたこと」の中に込められた真実のストーリーや、映画撮影の裏話などについてご紹介いたします。
contents
【ペンギンが教えてくれたこと】サム・ブルームとはどんな人?
映画「ペンギンが教えてくれたこと」でナオミ・ワッツ演じる主人公「サム・ブルーム」は、実在の人物です。
オーストラリア・シドニーの北にあるニューポートに、写真家であるご主人と3人の息子たちと一緒に住んでいます。なんと、本作の撮影も彼女の自宅で行われたとのこと。
事故に遭うまでは、子供の頃からなりたかったという看護師の仕事をしながら、母親として3人の子育てに充実した日々を送っていました。
映画の冒頭のナレーションにもありましたが、「海が好き」で泳いだりサーフィンをしたりすることが得意。時間があれば、自宅のそばの海でマリンスポーツを楽しんでいました。
タイで起こった悲劇
この上ない喜びに溢れていたサム・ブルームの人生が一瞬で変わってしまったのは、2013年に家族で訪れたタイでのこと。
滞在したホテルにて、周囲の景色を見わたそうと展望台へ登ったブルーム一家。そこでサムが寄りかかった柵が壊れおち、彼女は6メートル下のコンクリートに転落してしまいます。
一命をとりとめましたが、頭蓋骨・脳・肺などをひどく破損したうえ、脊柱を粉砕。結果、胸より下が痲痺してしまったのです。
2度と歩けないと告げられたサムは、7ヶ月間のリハビリに耐え、その後オーストラリアの自宅に戻ります。
すべてが変わってしまった
自宅に戻ってからが、サムにとって辛い日々のはじまりでした。
2017年のTIMEでのインタビューで、サムはこのように語っています。
「私たちの家は、私が覚えていたものと全く違っていました。赤ちゃんだった息子たちのために、私が築いた大切な居心地のよい「巣」ではなくなっていたのです。車椅子から見ると、かつては見慣れていた愛と安らぎの場所が、今は障害物がちらばった異世界のようでした。何もしっくりとはこない…自分が場違いだと感じました。」
夫や子供たちの世話をすることはもちろん、自分のことさえも1人ですることができなくなったサムは、妻でも母でもなくなったような気持ちでいっぱいになります。苦しさ、怒り、嫉妬、葛藤、悲しみなど、さまざまな感情がいつも彼女を襲い、生きる意味さえもなくなってしまいました。
さらに、海が好きだったサムにとって海のそばに住むということは苦痛でしかありませんでした。海を見るたびに、泳いだりサーフィンをしたりする過去の自分を思い出すのです。
サムにとってはもちろん、ご主人や子供たちにとっても辛い日々でした。
「ペンギン」との出会い
サムが家に戻ってから3ヶ月ほどたったある日、長男のノア君がケガをした「カササギフエガラス」のヒナを見つけます。地上18メートルほどの巣から落下したのですが、生きているのが奇跡なくらい。
体の色が黒と白だったことから「ペンギン」と名づけ、自立して自然に戻すまでブルーム家で世話をすることになります。
傷ついたヒナのお世話は大変でした。2時間ごとにエサをやったり、いつも暖かく保ったり。手間はかかりましたが、ペンギンのお世話をすることでサムの看護師であり母親である本能がもどってきたかのようでした。
サムは、自分が役に立たない存在だと思うことがなくなりました。ペンギンのお世話をすることで、新たな人生の目的を得たのです。
誰かがつらい時は寄り添い励ましてくれるペンギンに勇気付けられながら、ブルーム一家は明るさを取り戻していきます。
「その時は気づかなかったのですが、ある意味、おたがい生かし合ってたんだと思います。」とサムは語っています。
ペンギンの回復とサムの自立
ペンギンが回復するにつれて、サムの心も少しずつ自立に向かいます。
エクササイズや理学療法に取り組むようになったサムは、カヤックをはじめることに。ふたたび、彼女の海への愛が燃え上がります。上半身と腕だけでカヤックを漕ぐことは大変なことでしたが、彼女にとって海で過ごす時間は、自由で幸せな時間でした。
サムは熱心に練習をかさね、カヤックの世界選手権に出場。のちに障害者サーフィン世界選手権で2度も優勝しています。
ペンギンは今どこに?
成長して飛べるようになったペンギンは、野生に住むようになりました。それでも時には、ブルーム一家のもとに戻ってくること。
最後にペンギンが、野生へと旅立ったのは2015年のこと。
カヤック世界選手権に出場するためブルーム一家がイタリアへ出発した日でした。それ以来、ペンギンはブルーム一家のもとに戻ることはありませんでした。
カササギフエガラスの寿命は20〜30年と言われています。
どこかでペンギンは、自分の巣をかまえて家族と一緒に幸せに暮らしているのではないでしょうか。
【ペンギンが教えてくれたこと】の映画化が実現!
サム・ブルームのご主人で写真家のキャメロンさんは、サムがペンギンと過ごした日々を記録し、作家であるブラッドリー・トレバー・グリーブとともに1冊の本を出版します。
タイトルは「Penguin Bloom:The Odd Little Bird Who Saved a Family(原題)」。日本語タイトルは「ペンギンが教えてくれたこと ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話」。
そして、この本を読んで感銘を受けた女優ナオミ・ワッツにより、ブルーム一家の経験が映画化さることになります。
サム・ブルーム役にナオミ・ワッツ、夫のキャメロン役に人気ドラマ「ウォーキング・デッド」シリーズのリック役で知られているアンドリュー・リンカーンがキャスティングされました。
撮影で大変だったこととは?
映画製作にあたり、ナオミ・ワッツとアンドリュー・リンカーンは、何度もなんどもブルーム夫婦と話をしたとのこと。
ナオミ・ワッツが撮影で苦労したのが、車椅子のシーン。何度も練習し、当人のサムからアドバイスをもらいながら、それでもベッドから車椅子に移動するシーンや夫役のアンドリューに体を持ち上げてもらうシーンは大変だったそうです。
また、本物のカササギフエガラスとの撮影も一苦労でした。撮影にたずさわったのは、ヒナから成鳥まで合計7羽のカササギフエガラス。
できるだけCGIは使わず、ほとんどのシーンは本物のカササギフエガラスを使って撮影が行われました。時にはひたすら待つことを強いられることも。それでも、CGIを使ったのは、たったの5回以内だったそうですよ。
できるだけ現実的に描くために…
製作にも関わったナオミ・ワッツによると、本作をできるだけ現実的に描写したかったとのこと。
そのために、ブルーム夫婦も積極的に映画の製作に携わり、ブルーム一家の自宅が撮影に使われただけでなく、サムは自身の日記をも提供してくれたのだそうです。
ナオミ・ワッツはHollywood Reporterのインタビューで、次のように語っています。
「サムの日記は、とても個人的で苦悩に満ちたものでした。日記を読み何度も泣きました。そして、彼女にとってどんなに地獄のような生活だったかということが分かり、また彼女の強さを理解することができました。本当にインスパイアされる物語なんです。」
「ペンギンが教えてくれたこと」は愛を描いた映画
サムの夫役を演じたアンドリュー・リンカーンは、この役に抜擢されると同時に、夫キャメロンさんを質問攻めにしたそう。一緒にサーフィンをしたり出かけたりもしたのだとか。
ある時、アンドリューがキャメロンさんに「この映画で何を伝えたいのか」と聞いたことがありました。するとキャメロンさんの答えこのように答えたのです。
「映画を観る人に、サムと僕がソウルメイト(心の友)であるということを知ってもらいたい。この悲惨なトラウマを通して、 最終的にはそれがラブストーリーであるということを理解してもらいたいんだ。」
彼の言葉どおり、映画の中では夫婦の愛、家族の愛、ペンギンとの愛が繊細に表現されています。
相手を愛しているからこそ、より苦しく腹立たしい現実。行き場のない怒りと嫉妬。子供が負った心の傷。いろいろな感情を家族みんなが抱えながら、それでも最後は家族の絆や愛情がより深いものとなってブルーム一家を強く前向きにしていきます。
まとめ
映画「ペンギンが教えてくれたこと」の中に込められた真実のストーリーについてご紹介しました。
本作はハッピーエンドではありません。なぜなら、現在もサム・ブルームさんは、車椅子での生活を強いられており「その現実を受け入れることは決してない」からです。
しかし、映画「ペンギンが教えてくれたこと」は、観る人に夫婦愛や家族愛の尊さを思い起こさせてくれ、生きる勇気を与えてくれます。
こちらの記事を参考にさせていただきました。ブルームご家族のインスタには、素敵な写真がたくさんあげられています。ぜひご覧になってみてくださいね。
Sam Bloom
The True Story Behind the New Netflix Film Penguin Bloom | TIME
The Tiny Bird Who Saved My Life After a Devastating Accident | TIME
Naomi Watts and Andrew Lincoln on Working Alongside Real-Life Bloom Family in ‘Penguin Bloom’ | The Hollywood REPORTER
penguinthemagpie | Instagram
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。